作曲や編曲、楽器上達で最も有効な練習方法は「聴くこと」です。聴くことはとても単純なようですが非常に奥深いです。私はこれを9歳くらいの頃にピアノの先生に教わりました。今日は「聴くこと」について私の音楽生活をシェアしたいと思います。
レントゲン写真の見方
昔とある写真家の方と仕事終わりでコーヒーを飲んでいたとき、「写真の良し悪し」についてお話をされていました。
いわく、
「医者にかかってレントゲン写真を撮ったとき、医者と診察室で一緒にレントゲンを見るだろ?それをもとに医者はここがこうだから大丈夫とか、ここが白いから炎症が起きてるとか色々説明してくれるけど、僕にはなんのことかわからない」
と。
たしかに私も医者じゃないので、レントゲン写真の説明をされても全然ピンとこない。
しかし、「レントゲン写真を何万枚も見てきた医者」にはわかるのです。その写真がなにを示しているのかが。
写り方が悪くてたまたま白くなっている箇所と、確実に体のなかで起こっている「白くなっているやつ」が判別できるのだと。
そしてその写真家がつづけて、
「僕ら写真家も、写真家にしかない評価軸があり、一般の人には見えづらいものが見える」と言いました。
私はこの話を聞いて思いました。
音楽も全く一緒であると。
聞こえないものが聴こえる
プロの音楽家とアマチュアの音楽家の一番の違いは「聴く力」だと思います。
誤解のないように補足しますがこれはプロが秀でていてアマチュアが劣っているという価値観の話ではありません。
例えば、私は楽曲を30秒も聴けば「アンサンブルがどういう構成か」がすぐにわかります。曲のキーもわかります。8小節先のコード進行が大方予想できます。
↑これは一例ですが、プロ音楽家を名乗る人であればほぼ全員同じだと思います。
さらに、楽器の音色や歌声を自分の頭のなかでカテゴライズし、今まで聴いてきた膨大な楽曲達と無意識のうちに相対化しています。
日頃から楽曲を耳コピしたり、自分や他者のミックスを聴き比べたり、自分の録音を再生してみたりというのを続けると、そうしているうちに耳が育っていくのです。
一度演奏して二度聴き直す
自分の演奏や楽曲を何度も聴き直しましょう。
もう少しこうできるはずだ、もう少しニュアンスを変えたい、など、自分の演奏に自分がつっこんでいく。これを何度も繰り返す。
そうすることによって瞬時に自分の演奏を相対化し、俯瞰的に評価することができるようになってきます。
おそらく、楽器や楽曲がなかなか上達しない人は、己の音楽表現の相対化や俯瞰が足りない、あるいは全くない傾向があるのではないかと思います。
楽器奏者であれば、演奏しながらリアルタイムに自己評価する必要があります。
自分の音楽が一般的にはどうであるか、人が聴いたらどう思うか、自分では納得できるか、これらを瞬時に判断する訓練をしましょう。
だから自分の音楽だけではなく、広く様々な作品に触れている必要があります。
ライブハウスの罠
家ではしっかりギター練習して演奏できるのに、ライブハウスでギターアンプごしに演奏すると全然うまくいかないといった経験はだれにでもあるものですが、緊張などの外部要因を除けばこれも「聴くこと」に強く関係していることが多いです。
大きな音量をギターアンプで出して演奏するとうまくいかない人は、大抵アンプシミュレーターを使ってヘッドフォンで練習しています。あるいはアンプシミュレーターがついたアンプで練習している。
これはなにが問題かというと、レイテンシーです。
デジタル処理された音というものは確実にアナログ機器にはない「音の遅れ」を発生させます。
アナログで入った音をデジタル処理してまたアナログで出すのですからレイテンシーが出るのはデジタル機器の宿命です。
昨今のアンプシミュレーター付きのアンプは低いレイテンシーのものが多くて優秀ですが、それでもフルアナログ機器とは違います。
アナログとデジタルの発音スピードの違いは100分の3秒程度しかありません。
しかし、長く真空管アンプで練習してきた人はその差がはっきと認識できます。
ギターはアンプまでが楽器ですので、ギターだけではなくアンプもいいものを揃えましょう。小さくていいので真空管アンプで練習するのがポイントです。
音を超えた音
バンドで演奏していると音が振動となって体に伝わる感覚があります。
これも非常に「聴くこと」に関係しています。
スタジオやライブハウスで体感する「音」は、ヘッドフォンやスピーカーの中だけの音とは別物です。
楽器というのは、アンサンブルでの立ち位置や演奏するジャンル、部屋の広さや部屋の材質などで音が変わります。これらを充分に体感することがとても重要です。
なぜならば、音楽家はその「臨場感」を自らの音源に落とし込む必要があるからです。
実際に生演奏を聴く機会を増やせば、自らの楽曲へのリバーブの使い方が変わります。
私はギターが専門ですが、他の楽器でも全く同じことが言えると思います。
楽器から出る音の他にも、部屋鳴りや他楽器との共鳴、アンサンブルの立ち位置等「副次的に出る音」がミックスされて耳に入ってきます。
これらを聞き分け、自分の中でカテゴライズし、一般化し、自らの演奏に活かせるようにしていって欲しいです。